作者不詳の誘惑

泉が岳の松

できるだけ自分を隠しておきたい思いが強い私にとって、以前、作品のテーマとしていた万葉集の作者不詳と言う歌に添えられた表記は魅力的でした。また、最も好きな美術作品は、ラスコーの壁画であり、クバ族のアップリケで、これもまた作者不詳です。

何よりも、絵にまとわりつく巨匠(誰が描いた)とか傑作(一般的評価)とか号幾ら(価格)を払って、作品そのものを見るべきだと考えていましたから、画家のブランド化には大きな抵抗があったのです。

また、別の方向からも作者不詳の誘惑がありました。作品をネットで公開するためには、作品を画像データに変換する必要があります。しかし、作品は現実のアナログ作品ですから、同じものには決してなりません。

それで、様々な工夫をしてアナログ作品に近付けようとするわけです。このある意味むなしい作業も、逆転すれば別の価値を生み出すと思いました。

そうです、アナログ作品の画像データ加工を、元の作品から離れていく方向で利用し、別のデジタル作品を創り出すことを考えたのです。そこで、試みたのが人物デッサンをデジタル加工して、ルネサンス時代の古いデッサンに仕上げることです。

そして、そこで想定したのが、昔の忘れ去られた名もなき画家のフィクション、作者不詳の古いデッサンです。ここに、ネットショップのアンティークイメージシリーズが生まれました。