
先日、制作の参考にしようと、学生時代私淑していたベラスケスについて調べていました。彼が宮廷画家として描いた王女マルガリータの肖像画の連作があります。スペインのハプスブルク家からオーストリアのハプスブルク家へ嫁ぐ彼女の、言わばお見合い写真みたいなもので、幼児の頃から少女時代と成長に従ってオーストリアへ送られたようです。
話は飛びます。作曲家ラヴェルが晩年、記憶障害や失語症で苦しんでいた時、ある曲を聴いて「美しい曲だね。これは誰の曲だい?」と尋ねたそうです。それが、ラヴェルの若い頃の作「亡き王女のためのパヴァーヌ」です。
これは、ラヴェルがルーブル美術館で見たベラスケスのマルガリータ王女の肖像画にインスパイアされ作曲したと言われています。しかし、この曲は大衆からは好意を持って受け入れられたものの、作曲家仲間やラヴェル自身の評価も低く、他の作曲家の影響が強すぎ、大胆さに欠け、形式が貧弱と思われていたのです。
こんなことが調べていて分かりました。そこで思い出したのが、イギリスの作家イアン・マキューアン作「贖罪」のラスト付近で出てくる、若き作家志望のヒロインに寄せる編集者のアドバイスです。
「もっとも洗練されたレベルの読者ならば意識についてのベルグソン流最新理論にも通じているでしょうが、彼らといえども、お話を聞きたがり、サスペンスを好み、次にどうなったのかを知りたがることにかけてはそこいらの子供と変わりないとわたしは確信しています。」