絵を描く人

図書館

比較的後になって出版されたヴィトゲンシュタインの日記を、Kindle版で食事中に少しずつ読んでいます。彼の仕事である哲学と違って特に難解なところもなく読むのに特別な苦労はしませんが、彼の人間的な弱さや個人生活を知っても、全集から感じるある種の強靱さと比べて正直物足りなさもあります。ここには語り得ぬことを延々と述べてしまうヴィトゲンシュタインがいます。

しかし、全くつまらない分けでもなく、今朝はちょっと興味を惹く言葉を見つけました。

「神に語ることと、神について他人に語ることは違う。」

これを読み、言葉を換えて考えてみたのです。こんなふうに、

「絵画に語ることと、絵画について他人に語ることは違う」

絵を描くとは、画面と対話することです。さらに私の中には、人が創り上げてきた絵画そのものがいます。それに語りかけ、また、絵画の言葉を聴くのです。

それが私の制作の芯です。私はマルチな創作活動が出来ません。作品として写真を撮ることも、エッセーを書くことも、彫刻を作ることも。その裾野の狭さゆえか、私がアーチストとか美術家と名乗ることは違うと感じます。

本当を言えば、画家と名乗ることにすら違和感を覚えます。絵を生業としたいのは他のことが出来そうにもないからです。大昔1万年前から現代まで絵を描いてきた人類の片隅のひとりとして絵を描きたいのです。

そんな私が素直に受け入れることができる肩書きは「絵を描く人」です。私は、ただ、絵を描く人です。